decoy duck

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娘が起きていると「あそんでよー」という顔をして私のスカートをひっぱるので、翻訳作業に集中できない。 「ママお仕事なの」と言うと少しは聞いてくれるようになったが、やはり5分ともたない。

娘が文字や記号に興味を持ちはじめた。 最初に気にしはじめたのは哺乳ビンに付いている「P」の形のロゴ。 「これはなんだ?」というふうに指を差すので、 「Pっていう字だよ」と言うと、そのうちそれを指差しながら自分で「ぴ」と言うようになった。 次が「A」だ。私の発音が悪いのか「いぇい」と覚えた。「4」も「A」の仲間だと思っているらしい。 言われてみれば少し似ている。 「7」は「なーな」と言うのだが、彼女が猫の鳴きまねをするときと同じ発音だ。 猫と関連のある記号だと思っているに違いない。 「ハート」マークは数字より先に覚えたが、見つけるたびに両手をぱたぱたさせてハトのまねをしている。 日本語では平仮名の「よ」だけに興味があるようだが、先に覚えた8分音符「♪」に似ているからだと判った。

うちは貧乏でオモチャをあまり買ってあげられないので、 娘のおもな遊び道具はオートミール、クスクス、ヨーグルトなどの各種の空き箱。 こういう箱にはいろいろな文字や記号が書いてあるので、 ひとつひとつ「あーあー(これは何だ! 教えろ!)」という質問攻めにあうことになる。

「なんだか家の中に文字が氾濫している!」ある日そう感じた私は、対策を講じた。 バスルームのシャンプー、リンス、ボディーシャンプー、ハンドソープなどの容器は 表面の文字や絵が印刷された部分を剥がした。 真っ白な容器が並ぶ。 どこかで見た風景だと思ったら、無印良品の陳列棚に似ている。 全粒粉や蕎麦粉やレンティルやショートパスタ類も買ったときの包装のままで保存するのをやめ、 統一されたサイズの無地の密閉容器に移すことにした。 電気製品のロゴマークなども外した。 時計にはもとより数字は書いてない(3時と9時のところはアヒルになっている)。

動物の区別も「おんおん」、「なーなー」、「がーがー」、「ぴっ」の4種類しかないうちに、 また、色も「あか」、「あお」、「みどり」、「きいろ」しか解らない(発音できるのは最初の2つ)うちに、 「文字」という記号ばかりに気をとられるのは健全な環境ではないと感じたための対策だ (決して質問攻撃から逃げるためではない!)。

残った標的はコンピューターのキーボードと私が訳している英文雑誌だ。 ダミーのキーボードをいくつか置いてみても、「親が触ってほしくないと思っている」ものをかぎわける嗅覚は鋭く、 実際に繋がっているキーボードをめざとく見つけて、お気に入りのキーを押し、 やがてばしゃばしゃと「楽器」にしてしまう。

最近は、私が英文を読んで訳文を紙に書いていると、 2枚の紙を持ってきて隣で何やらぶつぶつ言いながら交互に指差している。 仕事を手伝ってくれているつもりらしい。

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(@_@)                Kusakabe Keiko
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$Id: d61.html,v 1.2 1999/04/23 12:42:44 keiko Exp $